ハギノスケさんは驚きの色を隠せません。

ハギハギさんが言います。

その夜 ハギハギさんが帰宅するとモン子さんが戻っているではありませんか!

数ヶ月前、お父さんの入院や商売の危機、仕事の焦り・・・何かと壁にぶつかりながらも

「顔晴(がんば)ります!」と、前向きに進んできたハギノスケさんと弟のハギハギさん。

”繋がって導かれている!  だから何も心配することなんてないんだ” 

3人(匹)は同じ想いを抱きながら 放たれるまばゆい光を見つめておりました。 

・・・ どうやら、今と昔の記憶が

ごちゃごちゃになってるみたいなんだ。

      南の島の話ばかりしているよ。

  オフクロはオタオタするばかりだしね ・・・」

しばらくして ハギハギさんが「ありがとう」と言って そっと箱の蓋を閉じます。

いつも自分のことなど一切かえりみずに一生懸命やってきてくれたモン子さんへの

想いも込められているのでしょう ・・・ 

どれだけ良いものを作ろうと熱意があったって

 いつもこの段階で遮られてしまいます。


ハギノスケさんは、そんな会社のシステムに

   違和感を抱き始めているのでした。

        「あっ!これは!」 ハギノスケさんがある日のことを思い出して声をあげました。

脳裏に潜む記憶のかけらが コトコトコト ・・・と音を立てて動きだしそうな 不思議な感覚をおぼえます。

だからこそ ”今”を生きようとしているひらめさんにとっては あえて箱にしまい込んでおくしかなかったのでしょう。

「あの日、戻ってきた妻が言ったんです。”一度 みんなで”南の島へ行ってみましょうよ”って ・・・

もちろん単なるバカンスのつもりでした。 それが ・・・ 実際 行ってみるとね ・・・  真っ青な空、澄み渡る海 ・・・

そして、その向こうの太陽を眺めているうちに ・・・ オレたち一家は無性に涙が溢れ出して止まらなくなったのです。

    ハギノスケさんも言います。 

「私も会社を辞めて独立することにしたのです。

   やっと ふんぎりがつきました。

あっ!先日思いついたものも特許が取れたのですよ!

 やる気があればどこにいたって仕事はできますからね!」

彼女は突然の家出を詫びた後 普段と変わらぬ笑顔で言いました。

どよ〜んとした2人(匹)は ため息をつきながらうつむいてしまいます。

「お見せしましょうか」 そう言ってひらめさんは静かに蓋を開けました。

「ただ ・・・ ここのところ徘徊が始まってさ ・・・

そのたび モン子が探し回って連れ戻してくれるんだけど ・・・

どうしてでしょうね オレもモン子も兄キも初めて訪れた地だというのに ・・・   恋しくて懐かしくってたまらない。

心底 離れがたく思っているところへ なんとうちの商売にぴったりの物件が見つかったのです!  

それで思い切って再スタートすることに決めました! オヤジやオフクロのあんな嬉しそうな顔を見るのは久しぶりですよ!

一見不幸に見えたことは 実は幸せへの導きだったのかもしれませんね・・・ 」

だけど ・・・ カウンターの中で一部始終 話を聞いていたひらめさんが

取り出してきたのは三味線ではなく小さな箱です。

二日前のことが脳裏をよぎります。

そこへ ・・・ ガラガラガラ ・・・

  ハギハギさんがやってきました。

その言葉通り、ハギハギさんの商売もなんとか軌道修正ができ

ハギノスケさんも大きなプロジェクトを任せれるまでになりました。

お父さんの体調も安定しています。

めでたしめでたし!! ・・・ のはずだったのですが ・・・

「乾杯でもしましょうか べんべん」

ひらめさんがヒレ酒をもう一杯熱燗して差し出してくれました。

お店の中は もう十分に温かい氣が充満しています。 

そんなモン子さんが突然、家出をしたというのです。

「えっ!どうして言ってくれなかったんだよ。」

ハギハギさんは続けて言います。

だけど 先ほど二人のお父さんの話を耳にしながら ひらめさんも又、何かを感じていたのでした。

      決して懐古的なものではなく ・・・ これから先の強い想い ・・・ とでもいうのでしょうか 。。。

そのあと モン子さんは続けます。  「ね あなた ちょっと相談なんだけど ・・・」

ひらめさんはひらめさんで 二人が帰ったあともしばらく

箱に手(ヒレ)を添え 何かに想いを馳せておりました。

・・・ そう言うひらめさんも又

なんだか遠くを見つめているようでありました。

「これからも いろんなことがあるかもしれませんが

ようやく気持ちがぶれずに顔晴っていけそうです!

ここでのご縁は一生忘れません!!」

2人(匹)はそう言ってお店をあとにしました。

さて それから2週間後のことです。 又々、二人(匹)がお店にやってきました。 そして ・・・

こちらハギノスケさんは ひらめさんのお店からの帰り道 また突然 何かが閃いた様子です。

今度はハギノスケさんが口ごもってしまいました。

「だって 兄キいつも忙しそうだし、余計なこと心配かけてもいけないと思ったからね。

               まっ それでも兄キが順調にやってくれてて それだけでも助かるよ。」

そう! それはそれはシャコ貝の中にちょこんとおさまった

水瓶の形をしたキーホルダー!!

  南の島に住むどん作さんからプレゼントされたものです。

そして 実は内心 ひらめさんが三味線を奏でてくれるのを待ちかまえているのでした。

   そう!モン子さんというのはハギハギさんの奥さんです。


コツコツまじめで働き者!その上、面倒見も良く誰からも頼られている彼女は

存在感も大きく、心優しい肝っ玉かあさんと言われているのです。

おやおや こちらもなんだか元気がありません。

久しぶりにお店にやってきたハギノスケさんは ちょっとばかし険しい顔をしています。

    そして加えて言いました。

「ちくわさん、あなたは気づいてないかもしれませんが

あなたの故郷だって、ちゃ〜んとあるのですよ。べんべんべん」

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