真っ青な空だった ・・・   真っ青な海だった ・・・

      寄せ返す波の音 ・・・

  だけど それらをすべて打ち砕くような大きな爆音


   あちらこちらから聞こえてくる叫び声の中 

       苦しみ 喘ぎ  そして戦う

再び光った西の空 ・・・

    それは流れ星でも  海に沈む大きな夕日でも    

                      あるはずがなかった 

ソノシュンカン タイセツナトモガ ジブンノ ミガワリニナッテ シマッタ 

    ジブンハ カレヲ タスケルコトモ デキナカッタ ・・・
   
                   ズット イッショニイタ トモダッタノニ ・・・

辛くて 哀しくて 切なくて ・・・      いえ そんな語彙で言い表せるほど 生易しいものではなかったのでしょう。

帰りたい! 帰りたい! 帰りたい!

        もう一度 生まれ育った故郷の土を踏みしめたい!! 

   その時の光景や感触が甦ってきます。

      
だけど ・・・ 果たして そこにいたのは 本当に、今ここにいるジブンだったのだろうか ・・・


確かな記憶と 確かでない記憶の狭間で

    ココロの奥底から叫び続けていた声だけが 今も脳裏にこだましています。

それ以上は何も思い出すことができません。



  その後ジブンが何をしていたのかも ・・・

 どれだけ 時が流れたのかも ・・・

気がつけば ここでお店を開いていた。  念願のこの土地で !!

               夢中で やってきた。 とにかく夢中で!

   記憶の呪縛から解き放たれようとしていたのかもしれない ・・・


だけど どういう経由で戻ってこれたのか どうしてここにいるのかは ・・・
  

                         それは今はまだ思い出せないままでした。

大ドババさんがキーホルダーを手(ヒレ)に差し出してくれます。

   ひらめさんは そっと握りしめました。

      体の震えが 引いていくのがわかります。


   辛くて 哀しくて 切なくて ・・・

 でも、今はほんのり温かい     なぜかほんのり温かい ・・・

だけど先ほどのような震えはありません。 今度は真綿に包まれて眠るような感覚です。

       どのくらい時間が経ったのでしょう。

  夢を見ている訳でもないのに ざわざわと声が聞こえてきます。 
 

    ああ、この心地よさは何なんだろう ・・・

      ジブンは今、とても幸せにちがいない!!

 そう確信できた瞬間 ひらめさんはふっと我にかえり目を開きました。

いつのまにか見慣れた顔ぶれに

取り囲まれているではありませんか!!

 そして 握り締めたままだったキーホルダーを

    そっと貝殻の上に置きました。

 それは驚くほどぴったりとそこに納まったかと思うと

      いくすじかの眩い光を放ち出します。

ひらめさんは言いました。

「もう大丈夫ですべん。 本当に もう たいじょうぶです!! べんべん」    今度は力強い口調でした。

♪べべん べんべん♪♪ べべん♪べん♪ べべん べんべん ♪ べべん♪♪べん♪

月明かりと眩い光が交差する中 ひらめさんは思いました。


  ここで こうしていられることの 幸せ ・・・

  それを少しずつでも 周りに 分け与えていくことができたなら ・・・

    ジブンは いつか許されるのだろうか べん

  身代わりになってくれたかつての友は いつかは許してくれるのだろうか ・・・



    みんなの笑顔 ・・・ 海を越えても繋がっていってほしいべん。

大ドババさんもハギノスケさんも、それぞれ今できることに必死です。

その甲斐あってか ひらめさんは ようやく意識を取り戻しました。

ひらめさんは うつ伏せになったまま小刻みに震えています。

意識を失ったまま起き上がることもできないひらめさんに 

大ドババさんは迅速な応急処置を施します。

声はまだ弱々しく 体も思うように動きません。

だけどそんな中 記憶だけは鮮明に甦ってくるのです。

そんな温かな鼓動を感じながら ひらめさんは再びす〜っと意識を失ってしまいました。

みんな心配顔です。

そこにいた者誰もが ハッと息を飲むくらいでした。

ひらめさんは起き上がって いつもの三味線をとりだします。

みんなホッと安堵しながら ぞろぞろと外にでてきました。なんせ狭いお店の中に入りきれないからです。

 
     ♪♪ べべん べんべん♪ べべん べん♪ ♪♪ べべん べんべん  ♪ べんべんべん♪ 

♪べべん べんべん♪♪ べべん べん♪  ♪べべん べんべん♪♪ べべん べん ♪

空には満月が輝いています。   さあ!宴会の始まりです!  

  誰一人としてひらめさんが倒れた原因を問いただしたりとか 過去を詮索したりとか 相手を責めたり咎めたりとか ・・・ 

そんなことはいたしません。
  だって ひらめさんがこうして元気になってくれたことだけで もう充分なのですから!

ハギノスケさんなどは今にも泣き出しそうです。

カウンターに置かれたキーボルダーは そんな思いに答えるかのごとく

いっそうキラキラと輝き放ったかのように見えました。

さて、ひらめさんは又 明日の仕込を始めます!

「振り向いていても始まりませんべん!」

※ ところで ・・・ あれっ! ハムさん ハムさん!! そこにドバトさんがいたじゃありませんか?

えっ?それどころじゃなかったって!? ドバトさんも気づいてなかったようですね ・・・

その後は お互いよく飲んでいましたからね〜 (笑)
 シラフでの出会いはもう少し先といったところでしょうか ・・・

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