手(羽)をあわすスズコさんを見つけた仲間がいっせいに ・・・

    電話の向こうの相手は

遠く離れた南の島に住む水牛のどん作さんでした。

誰をも信じることができず、憎まれ口をたたきながら、ひらめさんのお店に入り浸った最初の頃のこと ・・・

   急に倒れて助けてもらった時のこと ・・・   お店に集まるみんなとのやりとりのこと ・・・

 ボランティアで作ったお好み焼きを喜んで食べてくれた子どもたちの笑顔がお店を始める発端になったこと ・・・

         苦手だったガー兵衛さんがこっそり応援してくれているのを知った時のこと ・・・


     ここに至るまでに本当に多くの出会いがあり、みんなに支えられてきたことに 

                 ちくわさんは言葉にし尽くせないくらいの感謝の気持ちでいっぱいなのでした。
    

そして、いよいよ 明日がオープン!という日になりました。

取り乱して泣き叫ぶちくわさん

どんどん回復に向かっているビンさんは

必ず海を越えてやってきてくれることでしょう♪

でも 白みがかった空に太陽が昇り始めた瞬間、ちくわさんはもう自分の気持ちにウソはつくことができませんでした。

     「とーちゃん! かーちゃん! このオレが店を始めるんだぜ〜 !どうだいっ! すげーだろ〜! 」

そして立ち上がって地面を踏みしめると しっかりと今、生きていることを実感したのでした。


                 「オレ、今 生きてるんだっ! オレを産んでくれてありがとよっ!」

”ビンさんよォ 一度も会ったことがないっていうのに

オレ、なんだかずっと昔から知ってたような氣がしてなんね
んだ ・・・ 

不思議だよなあ ・・・  顔だって知らねえっていうのによォ ・・・ ”

ビンさんとの思い入れが深いハムさんたちも もちろんのこと ・・・

安堵感と喜びのあまり まともに言葉も返しきれず 

電話を切ったあと ちくわさんは放心状態になって

  へにゃへにゃと座り込んでしまいました。

ちくわさんのお店のオープンが いよいよ一週間後に迫ってきました。


      狭いながらも 木立に囲まれた心地の良い空間です。

ちくわさんは思わずつぶやきます。

そして自分のために湧き水を採りに行って事故にあってしまったビンさんのことを考えると、やり切れない気持ちになるのです。

その問いに しばし間があいたのち 

        ひらめさんがいつもの口調に戻って言いました。


「あなたは今、目の前のことを一生懸命することです べん ・・・

   そして その上で 精一杯祈ることでしょうね ・・・ べんべん 」

あれからというものの ちくわさんは ビンさんのことを

祈りながらも黙々と作業を続けてきました。

より美味しいものを ・・・

より快適な空間を ・・・

  みんなに提供するために ・・・

幟を立てかけようとしたちくわさんに

      シャッターが向けられました。

   満面の笑顔で はい チーズ!!


 涙の跡などは みじんも残っておりません。

さあ! いよいよ本当のスタートです!

「もしもし〜」   ゆったりとしているものの憔悴間が伝わってきます。

「ど・・どうなんだ!! びんさんは!? もちろん回復に向かっているんだろっ!?  なっ!そうだろっ!?」

プルルルル ・・プルル ・・  呼び出し音が数秒もしないうちに聞こえてきたのは 傍で看病をしているどん作さんの声 ・・・

明日の準備がほぼ完了したのは夜も深まった頃でした。 ちくわさんは外に出て空を仰ぎます。

遠くに引っ越していったコケ郎さん一家や ハギノスケさん、ハギハギさん一家も もちろんのことでした。

まだ出会ったこともないビンさんのために それぞれが それぞれの場所で祈ります。

せめてお店がオープンするまでは!と

息子たちとの同居を先延ばししてきたハト爺が ・・・

時間の合間をぬって大ドババさんが ・・・

  (先月から勤務しているのです)

「助かるにちがいありませんよ・・・」と

繰り返すドバトさんが ・・・

ハッと 我に返ったちくわさん ・・・

ポロポロと涙を流しながら ひらめさんの顔つきも真剣そのものでした。

              こんなひらめさんは初めてでした。

と、その時

ひらめさんの顔色が みるみる変わるのがわかります。

ちくわさんが帰ろうと立ち上がったその時、再び電話のベルが鳴りました。

ひらめさんは電話中でしたが 

      ちくわさんの姿に気がつくと ・・・

そして その日の一仕事が終わると ちくわさんはいつも ひらめさんに報告にやってくるのでした。

ホタロウたちも呼びかけています。

「え〜っ!! 冗談だろっ!! ・・・ でビンさんはどうなんだよっ!?」

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しゃがみこんだまま いろんな想いが頭の中で駆け巡ります。

「もう、だめかもしれません。脈も荒くなてきて ・・・ 今日が山場だと ・・・

 ・・・でも、ちくわさん、決してあなたのせいではありません。

            お店 がんばってくださいね」

ところが返ってくる返事は肯定しがたいものでした。

その時、遠くで 流れ星 ・・・ のようなものが見えた 

   ・・・ ような氣がしました。

 ・・・ なんて言ってたメジ郎も

それぞれが それぞれの想いで 祈ります。

ただでさえ涙もろい大ドバトさんが

ボボボと泣きながら ・・・

シラサギさんが ・・・

アオサギさんが ・・・

ビンさんのことは一晩のうちに皆に伝わります。

ひらめさんも 手(ヒレ)をあわせて祈りながら

「今日は閉めましょか ・・・」と言って 静かに暖簾を下ろしました。

その後 ちくわさんは知り合いのところを一軒一軒 駆けずり回って事情を話します。


  そして頭を下げて言うのでした。

大きな音がしました。

そんなビンさんが 自分のために ・・・と思うと

ちくわさんは じ〜んと目頭が熱くなる思いです。

せっせと宣伝のチラシを

配ってまわるのは 

  スズコさん ・・・

みんなが 入れ替わり立ち代り お手伝いにきてくれます。

ちなみに これらは数日後、 ちくわさんがお世話になったみんなを招待したときのメニューの一部です。

   ビンさんからお祝いに贈られてきた湧き水もちゃんと使われておりました(^^)/

そして どこかで信じているのです。


あれだけ皆も祈ってくれているんだ。

きっと助かるはずだぜっ!!

最初のうちは 「ビンさんの無事を祈ること」のみに集中していた意識が いつのまにか それをも超えたものに繋がっている 。。。 

    。。。 ということにも気がつかないほど誰もが皆、夢中でした。。

子どもたちは千羽鶴を届けてくれました。

これはヒヨボとキーキの提案だとか! ヨダカのダカも一緒です。

こんなちくわさんの姿も初めてのことでした。

お掃除係りは ドバトさん

その時です。電話のベルが鳴りました。  「どん作さんだ!」 ちくわさんは受話器に飛びつきましたが その声は別のものでした。

   「
もしもし ・・・」 透き通るような細い声。 それは初めて聞くビンさんのものでした。

はじめまして ちくわさん わたくし ずいぶんと長い間 眠っていたみたいです。

   はい、今さきほど目が覚めまして ・・  ええ ええ その間のことは覚えておりません。

でも、どうしてだか断片的に出てきたあなたの顔、あなたの声、あなたのいる光景だけは今もはっきりと目に浮かぶのです。

         ええ もうだいじょうぶですよ。 ご心配をおかけしましたねー

     あっ 申し遅れました。 この度はおめでとうございます。
 

いち早く願いを唱えたちくわさんは確信したのです。

     「もう大丈夫だぜっ!!そうさ 大丈夫にきまってるさっ!」

そう言うと、いても立ってもいられなくなり 

  深夜だとは知りつつもどん作さんのもとにダイヤルをします。

「そんな必要などない!」と頑固に言い張った

ガー兵衛さんが実はこっそりと ・・・

安産祈願と併せて 新婚のリス太さんリリ子さんが ・・・

「じつは ・・・  ビンさんが事故にあったのです。 湧き水を持ち帰る途中で ・・・ 」

こんなにもみんなに応援してもらっていると思うと 頑張らなくちゃ!です。

さあ!あとひとふんばり! 今はここで飲んでいる場合ではありません

のんびりと穏やかな声が受話器越しに聞こえてきます。

「あ〜 もしもし ちくわさん もうすぐですね〜 じつはビンさんがあなたに 

とびっきり美味しい湧き水をプレゼントしたいと言って  今採りに行って

  くれているんです〜 どうか楽しみにしていてくださいね〜

オープン前から ワイワイガヤガヤと賑やかなことです。

お味見のチェックはシラサギさん、アオサギさんの奥さま方

そう、物心がつくかつかないかの頃、ちくわさんのお父さんとお母さんは 突然いなくなってしまったのです。
   
     目の前に残されていたのは 一袋のちくわだけ ・・・


  病気だったのか ・・・ 事故だったのか ・・・それとも オレは見捨てられたのか ・・・

    そういうことすら尋ねる者もいない中、憎しみを覚えることで悲しみを包み隠してきたのかもしれません。

      周りの者への多くの感謝の気持ちは この二人に向けてだけは閉ざされ続けてきたのです。

・・・と、そこまでつぶやいた瞬間 ちくわさんはハッとしました。

自分の両親のことが脳裏をよぎったからです。 顔だって知らないのは自分の親も同じでした。

受話器を置いたあと ひらめさんは つとめて冷静さを装いながら震える口調で言いました。

            「ちくわさん 落ち着いて聞いてくださいね ・・・」

力仕事は部活やサークルで鍛えている

  ドバトさんの甥っ子のホタロウたち ・・・

ヒヨボやキーキも放課後にはすっとんできます。

試食のみならず 差し入れのおにぎりまで ちゃっかりほおばりますが

床を磨いたり ゴミを捨てに行ったりと しっかりお手伝いもしています。

そう、ビンさんというのはどん作さんの親友です。

ちくわさんは直接会ったことはないものの、彼との関わりがあるひらめさんや

ハムさんから話を聞いていたので なんだか親近感を覚えていたのでした。

”とうちゃん かーちゃん オレ一生懸命やるからよォ

 どこかで ちゃんとみていてくれよ〜!!”

ちくわさんは何度も心の中でつぶやいておりました。

その数分後には 続々とお客さんが詰め掛けてくるのでした。

そして まるで小さな子どものように

うわ〜ん うわ〜んと大声をあげて泣きました。


だけど その涙は昨日までのものとは全くちがったものでした。

受話器を置くと ちくわさんはうなだれてしまいました。

立ち上がる気力も残っておらず、かと言って眠ることもできません。

「そ ・・・ それが ・・・ 病院に運ばれたたもの 今は意識不明だと ・・・ どん作さんは言っております  べん ・・・」

ちくわさんの声もうわずっています。

もちろん 大ドババさんがじっとしているわけがありません。

       すべてを見守るのは大ドバトさん ・・・