思いつめた様子の妹を このまま帰してしまうわけにはいきません。

「ねえ せめて今夜くらいは泊まっていきなさいよ!」

「おとうちゃんが あんなにまで弱っていたなんて知らなかったよ ・・・ あたしも何かお手伝いしようと思った。 

  でも ・・ いざとなれば足手まといみたいなことばっかりしちゃってね ・・・ かえって気を遣わせちゃったみたい ・・・ 

    今日だって お姉ちゃんが出ていってしまってから あんまり会話が続かなかったんだ・・・

一緒にケーキを食べてる時は嬉しそうにしてくれるんだけど ・・・ さすがにあれ以上、勧めるわけにもいかないしね ・・・

   おとうちゃんは お姉ちゃんがいつ帰ってくるのかって時計ばかりを気にしていたわ。


       あ
、あたしはここにいたって 仕方がないなって思ったの。

            無理もないよね・・・ 長いこと遠くに行ったきりだったから ・・・」

ガーコさんは、ビビ子さんと もっと話がしたいと思いました。

よく考えて見れば この数年間 ゆっくりと向き合ったことなんてなかったからです。

不思議な形をした雲がゆっくりと流れていくではありませんか!

缶ビールを飲み干して、ほろ酔い気分の気分のビビ子さんが話題を変えます。

それからしばらくの間 二人(匹)は湯船のなかで

幼い子どものように キャーキャー笑ってじゃれあっておりました。

湯上りは縁側に出て ビールで乾杯!!

「だって お姉ちゃんは、いつだって周りから期待されていたじゃない。 みんなをまとめる優等生で、しっかりしていてさ・・・

   それに比べて あたしってなんにもなかったから ・・・  だからアメリカに渡って何かをみつけたいって思ったの。

     でもね ・・・ 何をやっても長続きしなかったんだ。 ある程度までは、すぐにこなせるのだけどね ・・・

情けないけど、この歳になっても、まだ手探りしているよ。 だから いっそのこと、このへんで引き返してくるのも潮時かな ・・」

やがて雲が流れ去り、

満月から差し込む柔らかい光に包まれた そのとき 

姉妹はまた 同じことを考えていたのです。

素直に「ごめんなさい」が言えないガーコさんは

かわりに思いっきりビビ子さんを抱きしめます。

あれあれっ! いつのまにか寝ていたはずのおとうさんが背後で月を眺めているではありませんか!

”あの雲の形のように 私たちだって少しずつ変わっていくのよね。 あたりまえのことなんだわ。

     だけど 巡りめぐりながら形を変えたって ちゃんとどこかで存在している ・・・

            そう!すべてを受け入れることが 大切なのかもしれないわね ”

「本当のこと言うとね あたし、昔からお姉ちゃんが羨ましかったんだ」

  「えっ!!わたしが!?」  またまた寝耳に水のガーコさん

 ・・・ と、その時でした。

すーっと 空が明るくなり 雲の合間からお月様が現れます。

「あっ、そうだわ! 一緒にお風呂でも入らない?」

   「 ・・・ いいかもしれないわね」 ビビ子さんの表情が少し和らぎます。

二人(匹)は黙ってそれを見つめておりました。

ガーコさんは言葉に詰まります。

    ”居場所がないって感じていたのは このわたし

 相手に寄り添おうともしないで、自分のことばかり考えていた ・・・

             あなたは何も悪くはないわ ・・・ ”

たわいもない会話が途切れたその時 

    ビビ子さんがポツンと言いました。

「まん丸じゃったり細〜じゃったり 見えたかはそのつどちがうがの

 それはわしらから見る見方じゃ ・・・ もとのお月さんはいつでも

     輝きつづけておるんじゃからの
〜 ・・

わしはおまえらが どこにおっても何をしてても 存在してくれてるだけで

もう それだけで うれしいんじゃよ ・・・」

だけど もうそんなことは どうでもいいことです。

それどころか妹がいとおしくてたまりません。

ガーコさんにしてみれば思いもよらない言葉です。

ビビ子さんは続けて言います。

ビビ子さんの そんな言葉にハッとするガーコさん

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 親子は縁側でしばしの間 寄り添っておりました。

そう言うと おとうさんは姉妹の肩に手(羽)を置き抱き寄せます。

    大人になった今だって ”あなたはお気楽でいいわね”と、妬みと羨望の気持ちを抱いていたのも正直なところでした。

それぞれ接し方は異なれど 想いは共に同じなのでしょう。

こういうのって 何年ぶりでしょう ・・・

「おねえちゃん 急に帰ろうとしちゃってごめんね ・・・ 」

そう思うと二人(匹)はなんだか気持ちがラク〜になったようでした。

「だって おとうちゃん ・・・」

そのあとを言わずとも ガーコさんは頷きます。 「そうね ・・・」

幼い頃から自由に振る舞い 何でもすぐに器用にこなせてしまう妹 ・・・そんな彼女を遠めに見ながら

人(鳥)一倍努力してきた自分 ・・・ 結果としては優等生なのかもしれないけれど ・・・