あの日から ダカとメジ郎はとても仲良しになりました。

メジ郎は放課後になるとダッシュしてお店にやってきます。

時にはテレビの話題で盛り上がり 笑い声が響きます。

   しかし 依然としてダカは登校できないままですし

学校でもメジ朗に対するいじめがなくなったわけではありません。

だけど、二人の内面では明らかに何かが変わる兆しがあることを ひらめさんは,もう十分に感じておりました。


その証拠にメジ郎は学校で何があったにせよ、お店にいる時の表情は最初とは、うって変わって違います。

ダカも学校の様子が気になるのか、そっと時間割や予定表をのぞき込んだりするようになりました。

お店の中では楽しくて守られているけれど、このままではいけないってことも彼らなりに感じているのです。

特にメジ郎は 早くダカに学校に戻ってきてほしくてたまらない様子です。

「ダカ 学校に来いよ。」 ・・・ だけど、そんなたったのひと言がなかなか口に出せません。 

こんなに仲良くなる前ならば容易く言えたことなんですけどね ・・・

それはダカだって同じです。 「ボク 学校へ行っていいのかな」って ・・・

傍からみれば たわいもないことなのかもしれませんが

幼い二人にはそんなことすら高いハードルなのでしょう。


でも、もう一歩です。

あとはお互いがどうやってきっかけを作るかだけ!

だけど ひらめさんは焦ったりせっついたりなどいたしません。

そう口にしたことが言霊になったのでしょうか!

チャンスはさっそくやってきました。 ・・・ と言ってもメジ郎にとっては大ピンチです。

そのピンチとは ・・・ 来週、校内で催される「クイズ大会」のことです!

二人ずつがペアになりクイズを解いて勝ち抜いていくシステムになっているのです。

まあ、クイズ自体は知識豊富なメジ朗にとってさほど心配はないのですが ・・・  問題はどうしても仲の良い者同士がペアを組んで

しまうため、ひとりあぶれるメジ郎は担任の「ヒス先生」とペアを組まねばならない雲行きになってきたということなのです。

ヒス先生に悪気はないのです。

      だけど自分の失敗を生徒に押し付けるところがあり

昨年もペアを組んだ生徒がとばっちりをくらって

延々とお説教された話はすでに校内中に広がっています。

メジ郎は考えただけでもゾッとしました。

理にそぐわないことで怒鳴られるなんてまっぴらごめんです。


  ”あ〜 こんな時に隣にダカがいてくれたらな〜”

 ダカさえ学校に来てくれたら一緒にペアが組めるのです。

そして何よりメジ郎はダカと二人でペアを組みたくてたまりません。

”ダカ、ペア組む相手がいないんだ。 だから学校に来いよ”  ”学校に  ・・・  来 い よ ・・・”

たったの そんなひと言が こんなに勇気のいることだなんて ・・・

”あ〜ん どうしたらいいんだよ〜”

今のメジ郎にとっては、ヒス先生の怒鳴り声よりも

ダカに「まだ学校にいきたくない」って言われることのほうが、よほどこわくて不安なのです。

いつもなら放課後はひらめさんのお店に直行するメジ郎ですが、今日は頭を抱え込んだまま公園のベンチに座り込んでしまいました。

そこへ通りがかったのが大ドバトさん!!


メジ郎の様子がいつもと違うことくらい

誰が見たって一目瞭然でわかります。

大ドバトさんは何も言わずメジ郎を肩に乗せると スタスタと歩き出しました。

行き先は もちろん ・・・ !!

ガラガラガラ !!

お店の扉をあけると

大ドバトさんはメジ郎を肩からおろして微笑みました。

そしてうわ言のようにブツブツとつぶやきます。

大ドバトさんが云わんとしている気配を

すぐに察知できるところがさすがにひらめさん!!

メジ郎が腰かけるやいなや 演奏が始まります。


♪べべん べん べん ♪ べべん べん♪♪

   べべん♪ べんべん♪ べんべんべん♪

今日の調べはいつものよりも 少し力強く

それでいてそっと優しく背中を押してくれているようなものでした。

もう何回も聴いている音色だというのに ・・・

  そしていつものお店の空間だというのに ・・・

今日は又 とてつもなく大きくものに包まれている 

    だから心配ないよ だいじょうぶ !!

音色からはそんなメッセージが伝わってくるようでした。

気づけばメジ郎の口が動いております。

あれだけ悩んでいたことがウソのようにメジ郎は気持を素直に伝えます。 それはダカも同じことでした。

確かにこの場だけを見ればあっけないことかもしれません。 だけど長いトンネルの中にいた二人にとっては

とっても重みがあり温かいひと言だったにちがいありません。

大ドバトさんはそんなふたりを見届けると

パッションフルーツジュースを一杯だけ飲み干して

そそくさと帰っていきました。

なんやら自作の歌を歌っておりましたがね ・・・

さて翌日 メジ郎とダカは肩を並べて校門をくぐります。

ダカにとっては数ヶ月ぶりの学校でした。

だけど、二人の姿があまりにも自然すぎたので

クラスメイトは一瞬たじろいだものの、

もはや誰一人として 野次を入れたり嫌がらせを

するものはおりませんでした。

そして、いよいよクイズ大会の日です。

ダカ、メジ郎のペアは難題をもクリアして次々と勝ち抜いていきました。 そしてついに最後の決勝戦にまで残ったのです。 

しかし 対戦相手は ・・・ と言いますと

いつもメジ郎に暴力をふるい、ダカを罵り続けていた隣のクラスのヒヨの「ヒヨボ」と「キーキ」ではありませんか!!

みんなが集まってきます。

「ヒヨボ」と「キーキ」は闘志爛々! だけどダカとメジ郎にとっては、もはや勝ち負けなんてさほど重要なことではありません。

だって ここまで一緒に来られたという絆だけで、もう十分に心が満たされているのですから。

最後の問題が読まれます。

この4人にとっては簡単なものでした。

すばやく手(羽)を上げたヒヨボが答えます。

しかし、いきり立って興奮しすぎたため

些細なミスをおかしてしまったのです。

そんな訳で ダカ、メジ郎ペアが優勝に決定です!

「やった〜!!ダカ〜 ぼくたち優勝したんだよ〜!!」

「わ〜い! メジ郎〜!! 本当に優勝したんだね〜!!」


   二人は力いっぱい抱き合って飛び跳ねます。

いじめられていたこと ・・・  いじめていたこと ・・・

  がまんしたり 泣いたり あれこれ悩んだこと ・・・

      すべてがウソのようです。

二人は最高の笑顔でした。

それが周りにも伝わったのでしょう。 うっかりミスをした子も、一問も答えられなかった子も ・・・

みんながニコニコ笑顔です。   ヒス先生までがなんだか嬉しそうです。


      この教室で先日までいじめがあっただなんて誰が想像できるでしょう ・・・

ただ、ヒヨボとキーキだけは廊下の片すみで

取っ組み合いをしていましたけど ・・・

(だけど、そんな彼らも「ひらめさんのお店」に

入りびたるようになるのは実はそれほど遠い日の

ことではないのです。)

こんな笑顔は隣のクラスにも、またまたその隣のクラスにも伝わったのかその日は

学校中がほんわかムードだったって聞きますから なんだか不思議なものですね。

ダカとメジ郎は今日の出来事をひらめさんたちに話したくてたまりません。

放課後はもちろん お店にダッシュです!!

バタバタバタ! 元気な足音が近づいてきます。

二人が勢いよく扉を開けると もうすでに何人かの常連さんが待ちかまえておりました。

山盛りのドーナッツとジュースも用意されています。

学校での様子を聞いた皆はまるで自分のことのように それはそれは嬉しそうでした。

だけど二人が帰っていった後、きれいに食べ干されたお皿を洗いながらひらめさんは思うのでした。

「あのように笑顔が戻る子供たちは、まだまだほんの氷山の一角なのかもしれないべん。」


一人の笑顔が二人に ・・・ 二人の笑顔が三人に ・・・ それがどんどん繋がってみんなが笑顔になれますように

と祈りながら ひらめさんは又、新しいおやつのメニューを考えているのでした。

その翌日のことです。


    ガラガラガラ ・・・

扉が開きそこに立っていたのは

ダカのお父さんとお母さんでした。

 その後でメジ郎ママが乗り込んでくるなんて

奥でお銚子を傾けていたドバトさんも

思ってもいませんでしたけれどね ・・・

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