この日もヨダカの坊やは ひらめさんのお店のカウンターで

    漢字の書き取りに熱中しておりました。  

          まだ明るい昼下がりです。

← 隣には 下戸で夜にも弱い大ドバトさん ・・・

そんな様子を扉の隙間から覗いているのはメジロの坊やです。

そこへ通りがかった大ドババさん!

するとメジロの坊やは

さあ 大変! この大ドババさんに楯突くなんて ・・・   これから延々とお説教が始まることは目に見えてます。

そこへ 二人のやりとりに気づいた大ドバトさんがお店の中からでてきました。

メジロの坊やはヨダカの坊やの隣にどんっ!と座らされます。


そのとたんヨダカの坊やの顔色がさっと変わったのを

ひらめさんは見逃しませんでした。


なぜなら彼こそ ヨダカの坊やを辛い目に合わせていた

いじめの張本人(鳥)だったからです。

それにしても 「ダカ」「メジ郎」 ・・・ これがそれぞれの名前だったってことを ひらめさん達は初めて知ったのです。

メジ郎は言います。 「だって ・・・ ぼく ・・・」

     そのあとは急に弱々しい声になって 黙りこくってしまうのでした。

  ひらめさんが二人の前に

山盛りのドーナッツ(サーターアンダギー)を

    さしだしてくれました。

  たっぷりと黒砂糖がかかっています。

・・・ と、捨てゼリフを吐くメジ郎でしたが ・・・

ひと口つまんでみると

ああ!なんて美味しいのでしょう!

なぜだかわからないけれど とても懐かしい味がします。

その横でひらめさんが三味線を奏で始めます。


  ♪ べべん べんべん♪ べべん べん♪♪

  ♪ べべん べんべん ♪ べんべんべん ♪

もちろん いつもの調べには変わりありません。

だけどこれを初めて聴くメジ郎は 魔法にでもかけられたかのように

身を乗り出して一点を見つめていました。

丸い目からポロポロと涙がこぼれ落ちるのも気づいていません。

大ドバトさん、大ドババさん

こちらも静かに聴き入っています。

いつのまにかメジ郎はヨダカの坊や、ダカの手(羽)を

ギュッと握りしめていました。


            そして言います。

ダカは黙ってこのクラスメイトを見つめていました。

あれだけひどいことをされたのにもかかわらず

悲しみも怒りの気持もありません。むしろ何か通じ合うものを感じているのです。

ひらめさんが優しくつぶやきます。

そのひと言を聞いたとたん メジ郎は声を上げて泣き出してしまいました。

メジ郎は訴えるように甲高い声で激しく泣き続けます。 くやしい思いもいっぱいあったのでしょう。

だけどもっと奥深いところでの メジロ族がヨダカ族に対する偏見を 彼も知らず知らずのうちに植えつけられている ・・・

・・・ そんなことにはこの子はまだ気づいていないのでした。

気持をぶちまけてラクなったのかもしれません。

   メジ郎の表情は最初お店に入ってきた時とは別人(鳥)のようです。

そろそろ陽が翳り始めました。 なんといっても小学生の彼らです。

ランドセルを背負って素直に帰り支度を始めます。

ひらめさんは言いました。

「又 いつでも遊びにいらっしゃい!今度はもっと大きな

ドーナツ(サーターアンダギー)を作ってあげますね!べん」

それを聞いたメジ郎は大喜び!!

「やった〜!! やった〜!!」と言って飛び跳ねています。

喜怒哀楽が激しいところはありますが この子もそれなりにプレッシャーを抱えて苦しんでいたのだと思うと

ひらめさんはちょっと胸が痛むような気がしました。

あれあれ 無邪気にはしゃぎながら帰っていく

二人をにこやかに見つめているのは ・・・

さっきから暖簾越しに「お客さんかな!?」と思われしき二人の大人の影 ・・・

まさにヨダカの坊や「ダカ」のお父さん、お母さんではないのでしょうか ・・・ !!

こちらは大ドババさん

なんだかんだ言いながら、実はこれから先も

この子たちのことが気になって仕方ないのです。

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