「あのね ・・・ じつはね ・・・」

それを聞いたところで ここにいるみんなは

特にびっくりしたり特別視したりする様子でもありません。

坊やはふつうに接してもらっていることがちょっと嬉しくなりました。

・・・ と言いかけて坊やの声はまたまた小さくなりました。

「おかあさんはね ちょっとしたことでも心配してオロオロして泣き出しちゃうの

  おとうさんは ”もっと強くなれ!強くなれ!”って言うばかり ・・・ ぼくだってほんとは強くなりたいよ

    ひたすら飛び続けてお星さんになったぼくのおじいちゃんはね ・・・ 」

坊やがそう言いかけた時 ちくわさんが何かを思い出したように叫びました。

ちくわさんは少し興奮気味です。

二人はお互いびっくりです。坊やもとても嬉しくなりました。

だって その本にでてくる主人公こそ 坊やが大〜好きな

     坊やのおじいちゃんなんですもの。

もちろんその本は坊やの宝物でもあり もう何度も何度もくり返して読んでいるのです。

・・・ しかし ・・・           

    坊やは喜びと同時に先日の辛い出来事を思い出してしまいました。

二週間ほど前のことでした。 

野外の授業が終わって教室に戻ってきた時 

大切なその本が見当たりません。 誰に聞いても知らんふり ・・・

あちこち探しまわったあげく 

   それはゴミ箱の奥に突っ込まれていたのです。

落書されて破かれて 踏まれたあとまでついています。

そして うしろで はやし立てるクラスメイト ・・・

  その日を境に 坊やは学校に行けなくなってしまったのです。

破れたところをセロハンテープで貼り付け 落書きも一生懸命消したその本を坊やは

  「これなの」 ・・・と言ってランドセルから取り出しました。

ああ なんてひどいことでしょう。

ひらめさんもドバトさんもやり切れない思いです。

いきり立ったちくわさんは今にも学校まで

乗り込んでいきそうな勢いです。

横では坊やがボロボロになった本のしわを丁寧にのばしています。

この子にとって それがどれだけ大切なものなのかは 見てるだけでもよくわかります。

しばし間をおき ・・・

坊やが本をそっとランドセルに

しまい込んだのを見て

ひらめさんが言いました。

その途端 坊やはカウンターに突っ伏して大声をあげて泣き出したのです。

今までこらえていたものが

   堰を切ったように一気に

 溢れだしたようでした。

ヨダカの坊やは それはそれは大きな声で 長い間泣き続けました。

だけど 思い切り泣ききった後 坊やはすくっと顔を上げたのです。

抱えていたものがすべて浄化されたようなすっきりした表情でした。

ひらめさんは温かいジャスミン茶をさしだして言いました。


「坊や 辛い時はお空を見上げてごらんなさい。

お星さまになったおじいさんはいつだってお空から

見守ってくれていますよ べんべん」

すると坊やはまたまた不安げな声で ・・・

「だいじょうぶですべん! その時 目には見えなくたって

ちゃーんとお空にはあるんです。 どこにいたっていつだって

ちゃーんと通じ合えるんですよ べんべん」

ひらめさんはパチンとウインクして微笑みました。

それを聞いて坊やは何日か分 ・・・ いえ 何ヶ月分かの元気が戻ってくるような気がしました。

坊やは最高の笑顔になり ぴょこんと立ち上がってランドセルを背負ったかと思うと

そう言って 

来たときとは比べものにならないくらい

軽い足取りで帰っていきました。

さて 坊やの姿が見えなくなるまで見送ったあとは またまた飲みなおしです。

おじさんと呼ばれたこの二人はしみじみ語り合いながら晩酌を交わし 夜も更けていきました。

それからというもの 坊やはちょこちょこお店にやってきます。

大好物のドーナツをいただきながらカウンターの片すみで

     勉学に励んでおりますが 常連さんたちがやってくると

   (シラサギさんなんかは坊やに会いたいがためにやってきます)

 嬉しくってたまらないといった感じで しっかり輪の中に入って溶け込んでおります。

学校のほうは?って ・・・ 

   う〜ん 登校できるのはもう少し先になりそうですが ・・・

                  ・・・でも みんなが温かく見守っているから きっとだいじょうぶなのです!!

楽しげな笑い声が聞こえてくるお店の様子を

  扉の隙間からじーっと覗いているのは

これまたランドセルを背負ったメジロの坊やです。

あっそうそう!みんなはまだ気づいていませんが ・・・

この子も また何かあるのでしょうか ・・・

  それを制して ・・・

お店の中は しばし沈黙の空気が流れました。

ひらめさんやドバトさん そしてちくわさんも ただただ黙って見守るばかりでした。

 加えてひらめさんは言います。

   「さっき ここで一生懸命勉強していた坊やは おじいさんのお星さんと同じくらいにもキラキラ輝いていましたよ。べんべん」

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