♪べべん べんべん♪ べべん♪べん♪


ハムのムスコが帰っていった後も

ひらめさんは陽気な歌を口ずさみながら

仕込みの続きにとりかかります。

  ♪べべん♪ べんべん ♪ べんべんべん♪

ひらめさんは目をつむってどん作さんの様子を思い浮かべました。

温かいものが心の奥底に染み渡っていくのがわかります。

 だけど  ・・・   その背景には青い空と青い海 

ああ、それ以上は   もう考えないでおこう

    だから ことさら歌います。

          ♪♪ べべんべんべん ♪べべん べん♪ 

トントントントン トントントントン シャカシャカ シャカシャカ

野菜を切る包丁さばきも  料理をあえる箸の動きも 

無意識のうちに歌に合わせて早くなっていきます。

ガラガラガラ !!  やってきたのは大ドババさんです。

お客さんではありませんが ・・・

あれやこれやとおせっかいをやき

どっぷり現実の中を翻弄させてくれる

こんな彼女の存在は、もしかしたら

こんな日には有難いのかもしれません。

大ドババさんはいつものごとく ツカツカツカとお店の中に入ってきて、どかっと腰を下ろします。

またしてもガラガラガラ!!と扉が開き、ハギノスケさんが飛び込むように入ってきました。

以前、お店にやってきた時とはうってかわって別人(魚)のような表情です。

勢いよく開かれた扉の間から 生ぬるい風が入り込みます。

厚く覆っていた雲が途切れ、合間から顔を覗かせた西陽がカウンターの中にまで射し込みました。

その瞬間、何かが眩く光りました。 

それは何 ・・・ 貝殻 それとも キーホルダー ・・・ 

いえ、両方なのかもしれません。   とてもまばゆい光でした。

そして、それは時として残酷なものだったかもしれません。

封印していた記憶が一気に溢れ出します。

ひらめさんの体がガタガタと震えだしました。

ここのところの上昇運で 目の前がいっぱいのハギノスケさんは

まだ、そんなことには気づかずに、テーブルの上に置かれたものを

見つけて 「おっ〜これは!」と声を上げます。

キラキラ光ると輝くそれに目を奪われるのは当然のことかもしれません。

さらに彼は続けます。

「ああ!これ、潮の香りがしますね〜  もしかしたら、ひらめさんの故郷って南の島のほうですか?」

   「 ・ ・ ・ ・ ・ 」

「あちらはいいでしょうね〜 わたしも行ってみたいな  しかし、また、どうしてこの地でお店を?」

   「 ・ ・ ・ ・ ・ 」

「そういえば ひらめさん、ご家族は ?」

   「 ・ ・ ・ ・ ・ 」

「年齢も不詳ですよね〜? いったいひらめさんっておいくつなんですか?」
   「 ・ ・ ・ 」

大ドババさんが叫びました。

ハギノスケさんがようやく空気を読み取ったその時

そこへ ・・・

「あらあら!これは?」 大ドババさんがテーブルの上に置かれたシャコ貝とキーホルダーに目をやった時 ・・・

そう!「幸せは自分で創り上げていかなくちゃ!」と

気づいて以来、仕事もプライベートも何もかも

   彼はツキがつきまくっているのです。


       今日もまた ・・・

ひらめさんの体から血の気が引いていくのが まだハギノスケさんにはわからないようです。

  どん!!  と音を立てて

ひらめさんは うつ伏せになって倒れこんでしまいました。

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