その日は天気予報に反して澄み渡るような青空でした。

桟橋を渡ると、ハムさんはもう待ちきれなくなり

一目散に駆け出します。

どん作さんに会える! どん作さんに会える! 胸が高鳴ります。

そう!ちょうど1年前

     野心を抱いて島から出てきたどん作さんは、疲れ果てて途方に暮れておりました。

そこへたまたま出くわしたハムさんは 彼を「ひらめさんのお店」へ案内します。

   どん作さんにとって、そこでのひらめさんとの出逢いは、それ以降かけがえのないものになっていったのです。

「あなたには、素晴らしい故郷と、あなたしかできない天職がありますべん」

その時、ひらめさんから掛けてもらった言葉は、こうして島に戻ってきた今も、どん作さんの心の大きな支えになっているのです。

一方、ひらめさんやハムさんたちも 時折届くどん作さんからの便りに元気をもらっていたのでした。

再会を求めて島にやってきたハムさんたち

舗装もされていない小路を駆け抜けて

3つほど角を曲がった時

目に飛び込んできたのはまぎれもなく

どん作さんの姿でした。

あいかわらずゆっくりだけれど 一歩一歩 丁寧に

大地を踏みしめ車をひっぱるどん作さんは

一年前に比べてずいぶん頼もしくなったように見えました。

ハムさんたちは、どん作さんが一仕事終えるまで待つことにします。

  そして いよいよ念願の再会です!!

瞬時にして一年の隔たりなど吹っ飛んでしまった!

                           誰もが同じ思いでした。

大きな大きな島バナナの樹の下で

どん作さんは島の話をいっぱい

聞かせてくれました。

便りに書かれていた文面は 今、そのままこの目の前にあり 肌で温度を感じます。

   昨日までの夢が、こうして確かにここににある!!  

そんなことを考えながら脳裏をよぎるのは 昨夜の出来事です。 ・・・ あれも夢 ・・・ ?

   明日になれば又 このように現実になってくれるのだろうか ・・・

そう!! それは「アカショウビンさんのお店」のことでした。

  確かに目の前にあった ・・・ はずなのです!

 島の仲間に出逢った ・・・ はず ・・・ だったのです

     それなのに ・・・

          
(この話はいずれ又 ・・・ )

どん作さんなら知っているかもしれない! ハムさんは思い切って尋ねてみます。

どん作さんはハムさんがいきさつをすべて

話し終えるまでじっと耳を傾けていました。

     そして 優しい眼差しで遠くを見つめながら ゆっくりと口をひらきます。


「本当のことというのはね ・・・

今、目の前に見えていないことや聞こえていないことの

中にもいっぱいあるんじゃないでしょうか」

「えっ!?それはどういうこと!?」


ハムさんの問いには答えずに どん作さんは続けます。

「もう一度 みんなに会いたいのですよね」

    みんな と言うのは 昨夜「アカショウビンさんのお店」で出会った島の仲間たちのことです。

       もちろん アカショウビンさんも含まれています。 

今度はダンナさんも大きく頷きました。

「心の目 ・・・ でしょうか ・・・ 」 どん作さんはポツリとつぶやきます。

何やらガサゴソと取り出したかと思うと

そっとハムさんの手に握らせてくれたのです。

それは手の平にすっぽりとおさまるくらいの

小さな水瓶の形をしたキーホルダーでした。

渦のような細かい模様が入っています。

「ひとつはハムさんたちに!もうひとつはひらめさんに」 そう言った後

「想いというのはね、それを信じて そして行動していくことによって ちゃんと形になっていきますよ」

           どん作さんの口調は力強くて優しくて 確信に満ちたものでした。

そして ・・・

どん作さん 会えてよかった! 本当にありがとう!!

  島から戻る船の中 ハムさんはどん作さんが言ってくれたことを何度も反芻していました。

だけど ・・・ 具体的には何からどうすればいいのかわからないまま また元の日常が戻ってきたのです。

さて、それから間もない頃

ガラガラガラ!扉が開き ひらめさんのお店に

  やってきたのはハム ・・・ のムスコ です。

この様子はお客ではありません。

ひらめさんはムスコに ・・・ というより、その肩から掛けられていた鞄に一瞬 目が釘付けになりそうになりました。

   どこかで見覚えがあるべん ・・・ なぜか懐かしい匂いがするべん ・・・

しかし、ひらめさんが思い起こそうとする間もなく

ムスコは スタスタとカウンターの目の前にやってきて

どん作さんからことづかってきたものを 「はい!これ」

と言って手渡します

「あ〜 どん作さんは元気でやっていたのですね べんべん」

ひらめさんは、それはそれは懐かしそうにキーホルダーを眺めていました。

少し島の様子を報告したあとムスコは まだ何かあったと思い出したように鞄の中を覗き込み

「これ、浜辺で見つけたものなんスけど

きれいだったから よかったらどうぞ」

コトン!! とテーブルの上に置かれたのは

乳白色のシャコ貝の貝殻でした。

「これは付き出しの器にでもなりそうですね〜べんべん」ひらめさんはニコリと微笑み お礼をいいました。

冷たいお茶を一杯ごちそうになったムスコは 

    ”なんでかよーわからんけどここは心地が良くて宿題ですらはかどりそうな場所やな ・・・”

と思いつつ、今さすがにここでノートを開ける勇気はなく 用件だけ済ませるとそそくさと帰路に向かいます。

もちろん、その直後ひらめさんがどうなってしまったか ・・・ 

・・・ なんてこれっぽっちも想像していませんでしたから ・・・

漠然としたイメージを描きながら ハムさんは二つのキーホルダーを壊れないようにそっとカバンの中にしまい込みます。

口蹄疫問題は胸が痛みます。この度、犠牲になったすべての牛さん、豚さんたちに
追悼の念を捧げるのと共にご冥福をお祈りいたします。

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