ところが ・・・ 戻ってくるなり唖然としました。

豪雨の影響はこの地域にまで及び、避難所になっていたこのかやぶき屋根の家にたどり着くまでもが四苦八苦でした。

わたくし一人(匹)だったなら、あの川を渡ることすらできなかったことでしょう。

♪なんとかなるべん なんとかなるべん♪♪ ささいなことは気にしないべん〜♪

そしたら本当になんとかなってきたのです。山を歩けば木の実やきのこ、豊富な山菜が豪雨にもめげずに芽吹きます。
十分に美味しいものができるようになりましたべん。まあ、ささいなことではありませんでしたけどね べんべん

ひらめさんはそう言って苦笑しながら自身のお店のことを思い出しておりました。

「それでもジブンは”何をすべきか・・”絶えず自問自答しておりました べん・・・」  ひらめさんは明かしながら続けます。

呼び名は「ボス」 本名はたしか別にあったと思います べん

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そこで  またまた複雑な面持ちをしているひらめさんに向かって提案したのはカメオさんです。

♪べべん べんべん ♪ べべん べん♪

またまた、陽気な歌声が聴こえてきそうな兆しです♪

「ただ・・ 」ひらめさんは少し口ごもって続けます。

「ただ・・・ この村はほとんどが高齢の方ばかりです。あの時の豪雨ほどではありませんが
自然災害が続く昨今、放っておくわけにはいかないのです べん」

想いはいつかかなうもの・・ そう信じ続けていたある日 突然チャンスが舞い込みました。

何かを察した シロハラ爺は ・・・

そして、実家の元へ夕食を作りにいくことも しばし忘れて

二人(匹)はひらめさんが出てくるのを待っているのでした。

まさか、ここで繋がっていたなんて・・・

またまた嬉しくて涙が止まりません。

カメオさんがそこまで言った時

ひらめさんがそう言うやいなや、シロハラ爺が言いました。

しかし、お料理を作るにも最初はまともに食材すらありません。

物資の調達はもっと被害の大きかった地域が優先ですからね。

おそらく慣れない旅の疲れがでたのでしょう。

こちら!というのはこの村です。
駅からおりても延々と距離はありますが・・

早朝、貼り紙を残し 我々は空港に向かいました。

南の島、海の底、地球の裏側、はたまたお月さん・・・

みんな勝手に想像して噂していたひらめさんの居場所でしたが

まさか車で一時間ほどの山里で対面できるとは・・・

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その日は誰にとっても密度の濃い一日でした。

もちろん ひらめさんは勢い良く 二つ返事なのでした!

そう言わると ちくわさんはかえって無理は言えません。

そしてジブンはここに
   残ることになったのです。

当然のことながら、南の島に向かうどころではありませんでした。

これ以上、民家への浸水だけは防がなければ!と
土のう袋をかき集めて積み上げるのに必死だったのです。

            何日間かそんな日が続きました。

”帰りたい 帰りたい もう一度 あの場所に ・・・”

さて、数日後

ちくわさんは、連絡先がわからないビンさんのことを
ずっと気にしておりました。

カメオさんは一言詫びると一気に話だします。

「実はわたくしも以前、訳あって南の島におりました。

ある日、ひらめさんたちと同じように、念願かなって生まれ故郷のこの村に戻ってきたのです。
だけど・・ 昔のような連帯感はなく 皆、孤立してどことなく寂しそうに思えて仕方ありませんでした ・・・

それで 少しでも村の方たちに元気になってもらいたくて、いろんな催しを企画し始めたのです。
 ・・・といっても、類のある親睦会や運動会、民謡大会など ありきたりなものしか思いつきませんでした。

そんな中、先日出かけた帰りのタクシーの中であなたを見かけたのです。

あのときのあなたはただひたすら「無」の状態の中、輝いていた・・・その姿に感銘してつい思わずお声をかけてしまったのです。
  歳を重ねても美しいものに目がないというシロハラ爺に、さらに笑顔を取り戻してほしいという気持ちもありましたからね・・・

あっ!「湧き水」は当時、病に伏せていたシロハラ爺の奥さんのために南の島まで調達しにいったのですよ。
その島にしかないと言われる魔法の水で、不思議なパワーが含まれているものですから・・・

おかげさまで奇跡的に命を取りとめられ、ずいぶんお元気になられました」

だけど不思議なものです。ジブンが歌っていると

みんなも同じように歌いだしたのですべん

だけど 途方に暮れてたって仕方ないですべん

       気つけば 歌を口ずさんでおりました。

その時 ボスが言ったのです。

それはひらめさんとて同じでした。

カメオさんがそこまで言った時、シロハラ爺も

   当時を思いおこしたように言いました。

そこへお二人(匹)がまた駆け寄ってくださり

・・・と、ひらめさんがそこまで話たとき カメオさんの声がしました。

「あの島には、いまだオレたちのように故郷に帰りたがっている多くの仲間たちがいる。

オレたちはルートを把握した。彼らが戻れる助けをしたいんだ。できればひらめさんの力も貸してほしい」

それはこういうことでした。

その時 ボスが言いました。

その夜は多くを語り合いました。

記憶のない過去や途切れた記憶が紡がれていきました。

だけどジブンにとって大切なのは「今!」この一瞬一瞬だということも確信したのです。

「あれに乗って帰れる!!」

ジブンはボスや他の仲間たちと、そのカバンにもぐりこみ空港にたどりついたのです。
搭乗手続きは不思議なくらい上手くいきました。
         そうして我々は懐かしの地に降り立ったのです べん。

念願のあの地で念願の店を出し ちくわさん、ドバトさんたちとも出会いましたね。
そんな限りない幸せをかみしめていたちょうどその時、ボスと再会したのです。

ああ、それよりもっとさかのぼる話ですね・・・ べん

実は・・ ジブンの生まれ故郷はみなさんと時を共にしたあの地でした。

だけど、あそこでお店をする前は南の島にいたのです べん ボスも一緒でした。

今ではすっかりリゾート化されたその美しい島で、ジブンたちは
それなりに安住しながらも、時折むしょうに故郷が恋しくてたまりませんでした。

べん ・・・ あれはちょうど一年前の昼下がりでした。お店の仕込みも終えてうたた寝をしていたところに昔の友が現れたのです。べん

”ジブンがあの時、お店から姿を消した訳 ・・・今までのこと ・・・ 彼らにきちんと話さなければ・・・”

                          ひらめさんはようやくそのことに関して口を開くのです。

ちくわさんも冷静になり、ドバトさんもようやく現実を把握することができます。

これ、実はアルコールではなく「水」なのですが ・・・

一口飲んだとたん、

ひらめさんの目が潤みました。

興奮冷めやらず、ちくわさんは

号泣しっぱなしです。

ひらめさんは相も変らぬ様子です。

一年前と違うのは、南国料理が山菜料理になったこと・・・

※ 決して食材を見つけたわけではありません。念のため・・

「なんとかなるべん♪♪」の言霊効果でしょうか。

「こと」ってすんなり行くときは、いとも簡単に進むものなのですね。

そういえば・・・あの地でお店を始めた時にも

  しょっちゅう歌ってましたね ・・べんべん

お店の前にやってきたよネコさんは一瞬、釘付けに・・・

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この数日、周りの景色が目まぐるしく変化したビビ子さんは単刀直入に・・

「えーえー あの時はどうなることやと思うたもんです。じゃけど、後から聞くところによりますと

他の地域はもっともっと甚大な被害がでたそうで ・・・  胸が痛みました。 

この村では幸いにして命を失うたり大怪我をした者は誰一人(匹)おらんのですから それに感謝せねばバチが当たります」

シロハラ爺はそう言いながらも当時の恐怖を思い出し涙声になります。

ここまで付き添ってきてくださったのです。

なんてありがたかったことでしょう。

だけどひらめさんたちが介抱してくださったおかげで大事には至らず、わたくしはその頃には

もう運転を再開し始めていた列車に乗ろうとホームに急いだのです。

なんせ一刻も早く「湧き水」をこの村に持ち帰りたい一心でしたからね・・・

     ところがまだ完全には回復しておらず立っているのがやっとの状態でした。

ところが激しい暴風雨のため飛行機は飛ばず

足止めをくらってしまったのです べん。

どれだけ日数がかかるかわからないことです。危険も伴うかもしれません。

そして、そのためには今あるものを手放さなければならない選択でもありました。

それでもジブンが返答するのに そう時間はかかりませんでした べん。