「そんなことはないですよ! お義母さんのせいじゃありませんよっ!!」

  よネコさんがいくらそう言ったところで それは絵空事にしか聞こえなかったのも無理はないのかもしれません。

ひらめさんは今夜の仕込みを終えたところでした。


カウンターに並ぶお料理を見るなりよネコさんの表情は輝きます。

その日 よネコさんはお義母さんの好物のおかずだけを

器にとりわけ、いつでも食べられるようにとラップをして

家路に向かったのでした。

またある日は ・・・

先日のこと ・・・

そう!浮かない表情の原因はこのあたりにあったのでした。

何度も何度も そうくりかえし続ける義母。

母はサイダーを一口飲んで ・・・    それからまもなく息を引き取りました。

   あんなもの 私が飲ませてしまったから ・・・
 

「ある日、市に出かけた私は 当時にしたらとても珍しい綺麗な色のサイダーをみつけたの。

そういえば 以前から義母は限られたものしか

   口にしなかった ・・・

向かう先は、実家です。

実家に着いたよネコさんは、単刀直入に聞くかわりに、最近読んだ小説の話を切り出します。

それは太平洋戦争の時代を生きた主人公の物語でした。

そう思うとよネコさんはちょっとムッとして

次の言葉を続けてしまったのでした。

険しい暑さが抜け切れない夕暮れ時、よネコさんが

浮かない表情でひらめさんのお店に現れました。

当時 義母はまだ10代

義母にとっての最愛のお母さんが亡くなった数日後の

  8月15日

  戦争は終わりました。



悲しくて切なくて やりきれなかった想いが

心のどこかにトラウマとして残っている

                それは無意識のうちにいまも続いてる ・・・

” もっともっと その頃の話を聞いておけばよかった ・・・ ”

     今、よネコさんはそう思っております。

1年後には、もはやまともに会話をすることすら難しくなってしまうなんて

                   まだその日、実感もなかったものですから ・・・



    そして これからの世の中 決して武力で争うことのない平和な世の中であってほしい ・・・ と心から願っているのです。

 

食糧もない戦時中を生きてこられたはずなのに、どうしてなんだろう・・・

もしかしたら何か訳でもあるのだろうか・・・

少しばかり遠くを見つめながら お義母さんは続けます。

・・・その話は今までにもよネコさんが

   聞いていたことでした。

義母は次から次へと話をします。

「なんで・・・」 と言いかけて、よネコさんは以前ハムさんから聞いた話を思いだしました。

いつも笑顔で楽しそうに見えるひらめさんなので、その訳はすっかり忘れかけていたのです。

なんで・・・ なんで・・・ ? その疑問の奥底には一言では語りきれない訳がある ・・・

ちょっと趣向を凝らした料理を作った時も

「ありがとう」と言ってひと口箸をつけるだけで ・・・

母は私が殺したようなものなんです。

    私が殺してしまった。

            私が 母を ・・・・・ 」

しばし 会話が途絶えました。

        そのあと 小さな呟き声が聞こえてきます。  
 「 私の母はね ・・・ 」 

よネコさんはその疑問をひらめさんには向けずにお店を飛び出していきました。

to be continued ・・・

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