シラサギさんは ひらめさんのお店からさほど遠くはない ・・・

     されど 誰もがうらやむような豪邸に住んでいます。

 美しく透きとおるような白い肌(羽) 

    すらりと伸びた長い足 抜群のプロポーション ・・・ 

  そんな容姿端麗のみならず 頭脳明晰!しなやかな身のこなし ・・・

もちろん 家事も子育ても手は抜かず すべて完璧にこなしています。


      誰から見たって 非のうちどころがありません。

今日もまた 上空へ舞い立とうとしているシラサギさん

   その姿は なんて優雅で気品に満ち溢れていることでしょう ・・・

  すれ違ったハムさんは 

思わず羨望のまなざしで見とれてしまいました。

   (まあ、ジブンはジブンだって割り切っていますけれど)

そんな いかなる悩みも迷いもないかのように見えるシラサギさんですが ・・・

 実はここのところ あることを胸に秘めたまま 落ち着きません。

♪べべん♪ べんべん♪ べべん べん♪♪

「時折聴こえるあのしらべ ・・・    なぜだかわからないのだけれど ・・・  

    どうしてこんなに 魂がゆさぶられるのかしら ・・・

 あ〜 気になって 夜も眠れないわ。 ワタクシは いったいどうすればいいの。

  思い悩んで 一週間 ・・・  ついにシラサギさんは

     ひらめさんのお店の前までやって来たのです。

 夕暮れ以降 ひとりで外出などしたこともない ・・・ ましてや

  このようなお店に 足を踏み入れた経験もない彼女は 

   ここまで来るだけでも ドキドキしています。

「あ〜 ついに来てしまったわ」

でも、いざとなると 暖簾をくぐる勇気がありません。

                    シラサギさんは お店の前で 何度も行ったり来たりしていました。  

そこへやってきたのは ドバトさん

ドバトさんは 美しい彼女に一目ぼれ!

   丁寧にお店の中へエスコートします。


 シラサギさんは もう後戻りなどできません。

「いらっしゃいませ〜 べんべんべん!」

  お店の中に入ったとたん シラサギさんは 頭の中が真っ白になりました。

     いえいえ 決して拒否反応じゃありません。

初めて訪れたはずなのに ・・・    どうしてこんなに懐かしいのでしょう ・・・


   彼女は一瞬にして 今まで張りつめていた緊張の糸が 

                ほぐれていくのが わかりました。

 ドバトさん、美人には弱いようです。

こんなに美しい方になら 毎日ストーカー

  されたってかまわないと思いました。

「まあ一杯 いかがですか?ホーホー」


    今度はドバトさんが緊張しています。

 まだ酔ってもいないのに 顔も真っ赤です。

  お酌をする手(羽)まで少し震えています。

「あら、よろしいのかしら。それじゃほんの少しだけいただきますわ」

        シラサギさんは 遠慮がちに おちょこに手(羽)をそえます。

  「まぁ なんて素敵なお味なのかしら」


さすがシラサギさん 

     飲み方も上品でさまになっています。

西の山々に 陽が傾き始めました。   シラサギさんはもうすっかりお店に馴染んでいるようです。

「あの〜 もう一杯 いただいても よろしいかしら ・・・」




   「ホー ホー どうぞ!どうぞ! ホー ホー」

しかし、そう言っているうちに みるみるとっくりが空になっていきます。

 もう一杯 ・・・

  もう一杯 ・・・


さらに もう一杯 ・・・

ドバトさんは どうしていいのかわからずオロオロしています。

 突然 シラサギさんは

目にいっぱい涙をためて

   ホロホロと泣きだしました。

  こうなれば やはり ひらめさんの出番です。

すでに手元(ヒレ元)には しっかりと三味線が スタンバイされておりました。

♪べべん べんべん♪ べべん べん♪♪

    ♪べべん べんべん♪  べべん べん♪

そのしらべはことさらに すべてのものを穏やかに 包み込んでいるようでした。

  シラサギさんは ついに

こらえきれなくなって 号泣です。


 美しい顔も涙と鼻水で

      ぐしゃぐしゃです。

♪べべん べんべん♪ べべん べん♪♪   ♪べべん べんべん♪ べべん べん♪

そんな中 ひらめさんは 黙って三味線を奏で続けます。

シラサギさんは落ち着きを取り戻してきました。

             そして少しずつ 話始めるのでした。

   自分は幼い頃から 優秀な姉妹達と比べられて育ってきたこと ・・・

いつだって「こうあらねばいけない!」と 厳しく言い聞かされ 必死で努力を積み重ねてきたこと ・・・

       今やもう そんな枠から抜け出せなくなってしまったこと ・・・

  絶えず周りの目を気にしながら 緊張とプレッシャーの中で生きていること ・・・

     本音を言える相手も そんな場所もなかったこと ・・・     



シラサギさんは 今まで誰にも語れなかった胸の内を すべてひらめさんにさらけだしました。
 
      どうしてこんなに素直になれるのか 自分でも不思議なくらいでした。

ひらめさんは 暖かいお茶を差し出して ポツンとつぶやきます。

「こうであらねばならない!!・・・なんて囚われる必要は

どこにもないんやべん。 あなたはあなた!一度きりの人(鳥)生や!

自由に飛び立てる素晴らしい翼をお持ちやないですか〜 べんべん」

となりで ドバトさんもうなずいています。

           ひらめさんは さらに続けて言います。

「でもな 今までそうやって頑張ってきた自分を ちゃんと認めてあげることは 忘れたらあかんのやべ〜」

シラサギさんは 安らぎと同時に 今まで味わったことのないような

             不思議なパワーが 体中にみなぎってくるのがわかりました。

一方 ドバトさん ・・・

 一目ぼれの恋はどこへやら ・・・


  でも、彼女(シラサギさん)とは 本当の意味で 

これからも 最高の友達になれそうな気がしています。

(ちゃっかり アドレスの交換まで しましたものね♪)

ひらめさんが奏でたものが どうして琉球三味線だったのか ・・・

  どうして南の島のお料理だったのか ・・・

 いろいろ尋ねてみたいと思っていたシラサギさんですが

  帰る頃にはもう そんなことなど すっかり忘れておりました。

そして この日を境に彼女の人生(鳥生)は 大きく変わっていくのです。

くいっ くいっ くいっ   ぐいっ!

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